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スーパーアプリ化はアジア限定?日本や欧米で機能特化型アプリが普及するのは必然である理由

2025.06.13 2025.06.12 16:11 企業
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「Unsplash」より

●この記事のポイント
・タイの料理デリバリーアプリ市場ではスーパーアプリ化に出遅れたフードパンダが撤退
・欧米ではPCからモバイルへの移行の過程で「バーティカルアプリ」がユーザーに定着
・日本は生活インフラがすでに充実しているため、新たな多機能アプリへのニーズが相対的に低い

 世界のアプリ市場をめぐっては、一つのアプリ上でさまざまな機能を提供するスーパーアプリ化が競争を大きく左右するカギになり、単一の機能しか提供できないアプリは生き残りが厳しくなっていくという見方がある。たとえばタイの料理デリバリーアプリ市場では、かつてはシェア2位につけていたフードパンダがここ数年で大きくシェアを落とし、ついに今年5月に撤退を発表。背景には、東南アジアで高いシェアを持ち同国でもシェア1位のグラブの存在に加え、スーパーアプリ化を進める競合企業の台頭があったという。米テスラの創業者であるイーロン・マスク氏が旧Twitter(現X)を買収した目的もXのスーパーアプリ化だといわれているが、現在、世界におけるスーパーアプリをめぐる動向はどのような状況なのか。また、日本でもスーパーアプリ化を進めない単一機能のアプリは生き残りが厳しくなっていくのか。専門家への取材をもとに追ってみたい。

●目次

欧米では「バーティカルアプリ」が普及

 まず、世界のスーパーアプリをめぐる市場動向をみてみよう。アプリのコンサルティングやアプリ開発を手掛ける株式会社プライムセオリーは次のように解説する。

「スーパーアプリはグローバルに注目を集めており、市場規模も年々拡大しています。IMARC Groupのレポートによれば2024年の949億ドルから2033年には5921億ドルに、またThe Brainy Insightsのレポートによれば2023年の784億ドルから2033年には9184億ドルに達するという予測もあります。欧米諸国においては、IT産業の中心地でありながらスーパーアプリの展開は限定的であり、むしろアジア地域における成長が顕著です。この背景には、欧米におけるアプリの進化経路が関係していると考えられます。アメリカをはじめとする先進国では、PCからモバイルへの移行の過程で機能ごとに特化したアプリ(いわゆる「バーティカルアプリ」)が多数登場しました。これらのアプリは個別に認知度を高め、ユーザーの定着を得る中で周辺機能を追加しながら成長してきました。

 一方、アジアでは、PCではなくスマートフォンが初めてのIT接点となるユーザーが多く、また、国として金融や行政といったインフラの整備が限定的であったため、複数の生活機能を一括で提供するアプリのニーズが高まりました。このような地域的事情に最適化する形で『生活インフラとしての多機能アプリ(スーパーアプリ)』の開発が初期から志向され、独自の進化を遂げています。特に中国においては、海外企業製アプリへの当局の規制が強いこともあり、国産アプリによる機能統合型の開発が促進された点が大きな要因となっています」

 一方、日本ではLINEがスーパーアプリ化を目指しているといわれるが、スーパーアプリ市場をめぐる動向はどのような状況なのか。

「日本国内においても一定の範囲でスーパーアプリ化を志向する動きは存在していますが、その進展度は他国、特に中国や東南アジア諸国と比較すると限定的であり、明確なトレンドとして認識されているとはいいがたい状況にあります。その背景にはいくつかの要因が考えられます。まず、日本の一般消費者にとって『スーパーアプリ』という概念自体がまだ広く浸透しておらず、多くのユーザーはその言葉を聞いたことがない、あるいはその定義を明確に理解していない可能性があります。そのため、たとえスーパーアプリ的な構造を持つアプリを日常的に利用していたとしても、それをスーパーアプリとして意識することは少ないのが実情でしょう。

 たとえばLINEは、日本国内で圧倒的なユーザー数を誇るコミュニケーションアプリでありながらも、メッセージングを中核としつつ、ニュース配信やショッピング、動画視聴、さらには行政手続きまで統合した機能を提供しており、スーパーアプリの条件をある程度満たしていると評価できます。しかしながら、ユーザーの多くはこれらの多機能を一貫して活用しているわけではなく、利用は限定的で、主にメッセージング機能に留まるケースが多いと見られます。このように、スーパーアプリとしての『構造』は存在していても、ユーザーの『意識』や『行動』はそこまで追いついていないという乖離が見られます。

 さらに、国内ではスマートフォン黎明期から多種多様な専用アプリが存在し、それぞれが特化型のサービスとして定着しているため、生活のあらゆる機能を一つのアプリに統合するという発想自体が、ユーザーや企業側にとって必ずしも自然な進化とは認識されていないことも普及の障壁となっている可能性があります。また、自治体においても行政サービスの集約を図るスーパーアプリ的な取り組みは進行しているものの、一般への定着度は限定的です。まず、日本では既存の生活インフラが高度に整備されており、複数の機能を1つのアプリに統合する必要性が低い点が挙げられます。そして、プライバシーやセキュリティへの意識が高く、データ統合に対するユーザー側の強い心理的抵抗があることも考えられるでしょう。

 このように、日本におけるスーパーアプリ化の進展は、技術的あるいはサービス的な面では進んでいても、それを支えるユーザー認知や利用習慣、企業戦略の点ではなお成熟の途上にあるといえるでしょう」(プライムセオリー)

日本の宅配アプリ市場でスーパーアプリ化が進まない理由

 前述のとおりタイの宅配アプリ市場ではスーパーアプリ化が競争の動向を左右する大きな要因となっているが、Uber Eats、出前館、menu、Woltなどが上位を占める日本の同市場では、スーパーアプリ化の動きは目立っていない。

「日本における宅配アプリ市場では、出前館やmenuなどのアプリが主要なプレイヤーですが、いずれもコア機能に特化しており、スーパーアプリ化は進んでいません。アジア諸国と比較しても、生活インフラがすでに充実しているため、新たな多機能アプリへのニーズが相対的に低いと考えられます。また、日本では用途ごとにアプリを使い分ける文化が根強く、『〇〇するならこのアプリ』といった専用性を重視する傾向が見られます。これは、利便性よりも操作性やUIの明快さ、UXを優先するユーザー傾向に基づくものです。このような文化的背景には、日本独自の携帯電話文化、とりわけiモードに代表される機能分離型のサービス設計が影響していると考えられます。当時の公式メニューには、天気予報、着信メロディ、占い、乗換案内などが独立したサービスとして横並びに存在し、機能を個別に呼び出す習慣が定着していました。

 加えて、日本ではフードデリバリーの利用率が他のアジア諸国と比較して決して高くはなく、スーパーアプリ化によるスケールメリットが見込みづらいという構造的な課題もあります。このため、同市場においてスーパーアプリ化がシェア争いにおける決定的な要素となる可能性は限定的であると考えられます。とはいえ、ポイントやクーポン配信など、ユーザーのロイヤリティを高める機能がスーパーアプリ内で横断的に提供されれば、一定の競争優位を形成する要素となる可能性は残されています」(プライムセオリー)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=プライムセオリー)

プライムセオリー

アプリコンサルティング・アプリ開発会社。アプリコンサルティングとiOSアプリ/Androidアプリ開発をメイン事業として、コーポレートサイトやキャンペーンなどのWebサイト制作からC2C、B2CやB2BなどのWebシステム開発、Webサービスの企画提案および構築、マーケティングあるいはテクニカルな側面からのコンサルティングまで幅広く展開。
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